【負動産:ふどうさん】親の不動産は子の「負動産」でもある⁉️《異種ワンテーマ格闘コラム:吉田潮vsマンガ:地獄カレー》Vol.10 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【負動産:ふどうさん】親の不動産は子の「負動産」でもある⁉️《異種ワンテーマ格闘コラム:吉田潮vsマンガ:地獄カレー》Vol.10

【連載マンガvsコラム】期待しないでいいですか?Vol.10

◼︎妹・吉田潮は【負動産】をどうコラムに書いたのか⁉️

【負動産】

 父が生まれた土地にログハウスを建てたのは20年前のこと。最寄り駅はJRの単線の駅で、電車は1時間に1本しかない。その駅から徒歩20分、田んぼや林を抜けて、くねくねとした細い道の先につながる長閑な集落の中にある。山の中ではなく里なのだが、夜は漆黒の闇に包まれるし、サルやイノシシ、最近ではキョンも出るという、ドのつく田舎だ。

 もともとは、かやぶき屋根の家と蔵があり、人に貸していたのだが、不在になってからは荒れ放題に。人が住まないと、家はこうも荒れるのかと驚いた記憶がある。地面から生えてきた竹によって、畳が押し上げられてうねっていたし、屋根にはススキが生えて崩れていたし、蔵の壁は剥がれ落ちて、骨組みが見えていた。修繕するにも専門の職人が必要で、とにかくコストがかかる。父は思い立って生家を壊し、更地にした。その上にログハウスを建てたのだ。

 ログハウスといっても実にシンプルで、あくまでセカンドハウス用の普請だ。永年居住するような造りではない。それでも天井は高く、幅の広い木の階段を上がると吹き抜けになっている2階建てで、猫たちにとっては理想的な間取りだった。

 父が元気な頃は母とともにまめに通っていたし、庭の柿やプラム、タラの芽や茗荷を収穫するのが愉しみだったようだ。私もちょくちょく遊びに行った。飼っていた猫も一緒に訪れたこともある。友人たちを連れていき、バーベキューをしたり、泊まったりもした。若かりし頃の思い出がそれなりに詰まった場所でもある。

 このログハウス、長年住んだシンガポールを離れて日本に帰ってきた姉が10年近く住みついていたのだが、そろそろ処分する方向に動いている。父が老人ホームに入居し、母は3LDKのマンションに独居状態。昨年から母は病気がちで情緒不安定なこともあり、姉は母との同居に踏み切ったのだ。

 不動産というのは買って終わりではない。都市計画税や固定資産税などの維持費もかかる。放っておけば猛々しい叢に覆われてしまうし、ログハウスと聞こえはいいが、要は素朴な丸太小屋なので、定期的な手入れも必要だ。経済的に余裕がある人や、今後利用するであろう一族や子孫がいるならば、もっていてもよいのだが、我が一族には余裕も人手も継承者もいない。人に貸して家賃収入、と考えないでもないが、いかんせん不便極まりないド田舎。車がなければ生活できないし、借り手はそうそう見つからないと思われる。

 父は生まれ育った場所であり、ログハウスを建てたくらいなので、思い入れは相当強いが、認知症となった今、管理できるはずもなく。今後かかる諸経費を年金暮らしの母が担うには重すぎる。親の不動産がマイナスしか生み出さない“負動産”になってしまったのだ。

 親に貯金や資産がうなるほどあるなら、何の問題もない。でも、ある程度年をとった親が憧れの田舎暮らしに手を出そうとしているなら、よくよく話を聞いたほうがいい。ローンを組むなどもってのほか。余生を自然環境豊かな住まいで、と考える気持ちはよくわかる。でも、体は老いる一方であることを忘れてはいけない。

 購入費用が問題ではなく、維持費の問題だ。全国に空き家が増えていると聞くが、大半は親の家で、子供は巣立って別の暮らしをしているからだ。年老いた親が住めなくなったものの、子供がそこに住めるとは限らず、住みたいとも思わないわけで。管理して維持する費用だけが重くのしかかると、それはもう立派な負動産だ。

 60代ならまだまだやる気も元気もあるし、働こうと思えば働ける時代だ。でも70代になると、急激に弱る。昭和初期に粗食で育ち、基本的に頑健と言われた世代であっても、70代でガクッと老いる。親を見ていて、つくづく思った。
新規住み替えや移住の話だけではない。今、老親が住んでいる家をゆくゆくはどうするのか、という問題もある。こんなこと、30代では考えもしなかった。間もなく50代に突入する時点で、「不動産を負動産にしない」方策を真剣に考え始めた。

 親の問題だけじゃない。私も自分名義の不動産がある。誰の手も借りず、自分で払い終えたプチ自慢の不動産だ。昔、追い出されて住む家を失った経験があるので、二度と追い出されない、自分の確固たる居場所=不動産にひどく固執していたのだ。

 しかし、建物自体の老朽化は激しい。死ぬまで住めるとは思えないし、どこかの段階で整理を考えなければなるまい。不動産をもつことは憧れだったし、自慢の宝物であり、そのために働いてきた自分の誇りでもあるけれど、自分も不動産も確実に年をとる。老朽化する。価値のあるうちに売ったほうがいいかと思ったりもする。
 
 どんなに思い出の詰まった家でも、家族の歴史が刻まれた家でも、いずれ整理が必要になる。老いた親の代わりに動くのが子の宿命か。負動産になる前に、できることをやっておかなければいかんのだよ。

 これ、40代50代の人にこっそり呼びかけています……あなたの親の家、大丈夫ですか…? 支払い状況とか土地の権利とか把握していますか…? 知らぬところで莫大な費用がかかっていたりしませんか…? うっかり自分に降りかかってくる負動産になっていませんか…? とりあえず、テレビ番組「ポツンと一軒家」が大好きな親とか、「月刊 田舎暮らしの本」を愛読している親がいたら、要注意やで。

 (連載コラム&漫画「期待しないでいいですか?」次回は来月中頃です)

毎月14、15日頃連載コラムvsマンガ「期待しないでいいですか?」

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吉田 潮

よしだ うしお

コラムニスト

1972年生まれ。おひつじ座のB型。千葉県船橋市出身。ライター兼絵描き。



法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』、『Live News it!』(ともにフジテレビ)のコメンテーターなどもたまに務める。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より『東京新聞』放送芸能欄のコラム「風向計」を連載中。著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』(KKベストセラーズ)、『くさらない イケメン図鑑』(河出書房新社)ほか多数。本書でも登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。



公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/



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